低ナトリウム血症

高齢者と低ナトリウム血症(5%ブドウ糖の幻想)

高齢者と低ナトリウム血症(5%ブドウ糖の幻想)

 

高齢者の方が入院したり、外来にやってくる時に、
採血検査をするとナトリウム濃度が低くなっていることはとても多いです。

 

 

では、それはなぜ起きるのでしょうか?
どのように対策したらいいでしょうか?

 

 

というお話をします。

@5%ブドウ糖の幻想
A尿の調節力障害
BADH分泌を知る

という3点で、これを解説します。

 

 

 

 

@5%ブドウ糖の幻想

 

輸液の勉強をしたり、救急や麻酔領域などで
「5%ブドウ糖を入れると、細胞内・細胞外に均等に分布して、血管内には12分の1が分布する」
っていう内容を習うと思います。

 

 

人の体は、
高齢者と低ナトリウム血症(5%ブドウ糖の幻想)
このように分布しています。
そこで、浸透圧が等しくなるように水の移動が起こり、浸透圧の調整を行っています。
(ここの部分は、細胞膜(半透膜)とはというページで解説しています。)

 

 

5%ブドウ糖を入れた場合は、どうなるかというと
高齢者と低ナトリウム血症(5%ブドウ糖の幻想)

 

ブドウ糖はすぐに代謝されて、糖分はなくなるので、真水を入れたのと同じ効果になります。

 

 

高齢者と低ナトリウム血症(5%ブドウ糖の幻想)

 

すると、細胞外液の浸透圧が下がり、
細胞外液⇒細胞内液への水の移動が起こります。
高齢者と低ナトリウム血症(5%ブドウ糖の幻想)

 

 

そうして
高齢者と低ナトリウム血症(5%ブドウ糖の幻想)
このように全体に分布して、血管内に「十二分の一」だけ残る、と習います。

 

 

確かに、そのように分布しますし
この反応は、ブドウ糖投与から30分くらいで起こる、と言われています。

 

 

ですが、ずっとこの状態ではありません。
この状態は、濃度で言うと薄くなっています。
いわゆる、低ナトリウム血症の状態です。
高齢者と低ナトリウム血症(5%ブドウ糖の幻想)

 

 

細胞は、この濃度の違い(低ナトリウムとなって浸透圧が低下する)ことへ反応します。
(心因性多飲症)の患者さんを思い浮かべてもらえうとわかると思うのですが
1日に12Lもの尿を出すことができます。
高齢者と低ナトリウム血症(5%ブドウ糖の幻想)

 

 

 

よって、5%ブドウ糖を投与した場合
腎臓での調節力があれば、
一旦は水が入り濃度が下がっても、体が調整し、
水分を尿で出すことが出来ます。

 

しかし、『腎臓での調整力がないと、入った水を出すことができず、濃度が下がってしまう』
ということを意識しなければいけません。

 

高齢者と低ナトリウム血症(5%ブドウ糖の幻想)

 

ブドウ糖を点滴するということは、このように左右どちらかのことが起こりうる
ということを、忘れないでほしいと思います。

 

 

多くの人は、ブドウ糖を投与すると12分の1が分布することを知っていても
長い目で見た時に、それを尿で排出して濃度を一定に保っているという機能を忘れてしまうことがあります。
ブドウ糖を入れても濃度が下がらない人は居ますが、問題ないという感覚は幻想です。

 

 

 

 

 

 

尿の調整力障害

 

では、高齢の患者さんで低ナトリウム血症となっている または
維持輸液をしていたら低ナトリウム血症となっている例は沢山見かける機会があると思います。

 

 

なぜそうなっているかというのは、先述した尿の調節力障害です。
高齢者は、尿の調節力が落ちるということです。

 

 

 

普段、元気で若い方は、
水分を3Lとか飲んだとしても、体の中のナトリウム濃度は正常値を維持しています。

 

これはどういうことかというと、
●飲んだ水分
というのを、しっかりと体の外に出すことが出来るから
食べても飲んでも浮腫まないし、ナトリウム濃度が変わらないのです。

 

 

もう少し細かくお話すると
1日の塩分を6gとすると
1日1000mlの水分を取っても
1日3000mlの水分を取っても
尿量は増えますが、塩も水分も全部尿として排出できるのです。

 

しかし、高齢だったり腎機能が悪いと、
1日の塩分を6gとすると1日1000mlの水分しか出せなければ
2000mlほど、体にダブついてしまいます。

 

高齢者と低ナトリウム血症(5%ブドウ糖の幻想)

 

これは、尿の濃縮力のイメージ図です。
腎臓が悪かったり
高齢で、腎臓の働きが落ちていると、
尿を濃くしたり、薄くしたりができなくなります。

 

 

尿の調節力がもともと落ちている高齢の患者さんでは
出しきれる尿の水<<入れる水
となりやすく、そのせいで低ナトリウム血症となってしまいます。

 

 

ADH分泌を知る

 

普段は、ナトリウム濃度が下がるような状態になれば、ADH分泌は抑制され、水利尿がおこります。
しかし、ADH分泌が不適切に起こる場合があります。

 

ADH分泌は、下記のような刺激によって起こりえます。
高齢者と低ナトリウム血症(5%ブドウ糖の幻想)
(N Eng J Med  may 17, 2007 The Syndrome of Inappropriate Antidiuresisより引用)

 

この中で、肺炎や体へのストレスで、ADH分泌されることを知っておきましょう。
高齢者と低ナトリウム血症(5%ブドウ糖の幻想)
このように、肺炎の方や体調不良な方では、ストレス性にADH分泌がされることがあり
これらによって低ナトリウム血症となっている方も多いです。

 

 

基本的な対処は一緒です。

 

入れる水>>>出せる水
とならなければよいので、

 

 

点滴の水の量
食事の水の量

 

を、入れすぎないように注意する、ということをしましょう。

 

 

 

 

ということで、高齢者の低ナトリウム血症を見たら、
尿で出せる水分の量以上に、水分を摂取しているため
低ナトリウム血症になっていることが多いです。

 

 

 

調整力が落ちているものと認識して、
良いメニュー、良い塩分・水分バランスの提案をしてあげましょう。

 

 

 

 

 

 

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