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蒸留水を単独で点滴してはいけません。輸液のための浸透圧の考え方

蒸留水を単独で点滴してはいけません。輸液のための浸透圧の考え方。

点滴をするうえでの注意点の一つに、浸透圧があります。
蒸留水を単独で点滴した場合、どうなってしまうのか、それを解説します。

 

まず、とても重要なことを伝えます。
蒸留水を単独で点滴してはいけません。
非常に危険です。

 

 

これを解説するために、前提知識として、
半透膜の性質を知っておいていただく必要がありますので、
見ておいてください。

 

 

では、解説します。
蒸留水を単独で点滴してはいけません。輸液のための浸透圧の考え方
 
 
水の移動
浸透圧が高い方⇒浸透圧が低い方へ、水は移動していきます。

 

ですので、細胞を等張液・低張液・高張液に漬けた場合、水が上記のように移動し、
低張液の場合は、細胞が破れてしまいます。

 

低張液:細胞に水が入り込んでくる
等張液:細胞内外での水の移動はない
高張液:細胞の水が外に出ていく

 

では、蒸留水を点滴した場合はどうなるでしょうか。
蒸留水は低張液であるため、血液中にある細胞(赤血球等)が破裂し、溶血を起こしてしまいます。そのため、点滴で入れる溶液は、浸透圧>1以上になるように、点滴をしなければいけません。

 

 

浸透圧が1未満の点滴投与はとても危険なので、蒸留水の単独点滴は危険なので絶対にしないようにしましょう。

 

 

また、浸透圧が低い場合も危ないですが、高い場合にも上限があります。
末梢点滴の場合、浸透圧は3以下にする、というルールもあります。
それ以上になると、静脈炎のリスクが高くなるからです。
(3未満の場合でも、輸液の浸透圧が濃ければ濃い方が静脈炎を起こしやすいため、注意は必要です。)

 

 

 

実際に、どのような時に蒸留水を入れたくなるか、ということとその対策もお話します。
一つの状況としては、高ナトリウム血症+低カリウム血症のある患者さんで、かつ低栄養の場合です。

 

 

低カリウム血症は不整脈で命に係わるため、速やかに治療しなければいけません。

 

カリウムの点滴は、末梢点滴の場合、40mEq/L未満、というルールがあります。(ワシントンマニュアル参照)

 

そして、ブドウ糖に混ぜて投与してしまうと、
グルコース・インスリン療法(GI療法)と同じ効果になってしまうため、カリウム値が下がるリスクがあるため、
低カリウム血症の治療では、ブドウ糖投与は慎まなければいけません。

 

なので、一般的には生理食塩水1000mlに、KCL40mEq/Lとなるように点滴を作ります。

 

しかし、この場合194mEq/ L近い濃さになってしまい、飲水できない人では、高Na血症傾向となります。
そして、もともと高Na血症のあるような患者さんでは、さらに濃度が上がってしまいます。

 

 

ということで、ブドウ糖入れたくなく、ナトリウムを入れたくなく、カリウムを入れたい
と考えて、間違えて蒸留水にカリウムを入れてしまいます。

 

しかし、蒸留水+KCL20mEqでは、浸透圧1以下なので、投与するのは危険です。注意してください。

 

 

こういう時は、そもそも末梢点滴での治療が適していません。
経鼻胃管を挿入し、水とカリウムを投与する方が、治療しやすいです。

 

 

ちなみに、もし、低カリウム血症による麻痺性イレウスがあったりすると、本当に困ってしまいます。

 

 

もし、その状況で中心静脈がとれなくて末梢点滴で、という場合は、
少しでも輸液の陽イオン濃度を減らしたければ
10%塩化ナトリウム+KCL+蒸留水で混ぜるという方法なら、少し良いかもしれません。

 

 

KCLを20mEq/20ml
10%NaClをXml
蒸留水を500-20-Xとすると

 

10%NaClは、2g/20mlの食塩水なので、
34mEq/20mlです。
1700mEq/Lとなります。

 

             X×1700
134mEq/L=------------------------------
            X+(480-X)

 

左の134mEq/Lは、生食の154mEq/Lと同じにする場合のことです。
154mEq分からもうカリウムで20mEq分の陽イオンが入っているので、差し引いておきます。

 

10%NaClが37.83mlとなります。
約38mlということで

 

10%塩化ナトリウムを38ml
KCLを20mEq
蒸留水を442mlになるように(蒸留水500から58mlを抜く)

 

 

 

とすると、生食と同じ濃さで最大量のカリウムを入れられます。
浸透圧は1となります。

 

 

 

ということで、蒸留水を単独で投与するのは危ないのでやめましょう。というお話でした。

 

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塩(NaCl)1gは何mEq?カリウムは何mEq?
これを理解した上で、NaCl1gは何mEq?ということを学ぶと、身に付きやすくなります。

 

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輸液メニューを決める上でも、浸透圧を考えることは重要です。

 

ナトリウムの公式
浸透圧の概念を学べば、ナトリウム濃度補正にとっても+になります。

 

Edelmanの公式と、ナトリウムの公式の数学的な証明(解説)
少し難しいかもしれませんが、チャレンジしてみてください!

 

 



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