スペクトラムとは(抗菌薬)
細菌によって効く抗菌薬、効かない抗菌薬があります。
肺炎球菌という菌にはペニシリンが効きますが、緑膿菌という菌にはペニシリンは効きません。
こういった場合、ペニシリンのスペクトラムとしては、
「肺炎球菌をカバーする(効果がある)」が、「緑膿菌はカバーしない」という表現をします。
抗菌薬のスペクトラムという言葉は、「この抗菌薬はどんな菌に効く抗菌薬なのか」、という意味です。
抗菌薬のスペクトラムを知る意味
抗菌薬のスペクトラムを知っておくことが抗菌薬選びにとって、何の役に立つか、ということが大事です。
その意義は2つあって
・推定される菌をやっつけるための抗菌薬が選べる
・貴重な抗菌薬の耐性菌が出現するのを防げる
という点です。
推定される菌をやっつけるための抗菌薬
たとえば肺炎は
・肺炎球菌
・インフルエンザ桿菌
・モラクセラ・カタラリス
の3つの菌が多い感染症です。
では、この感染症に対する抗菌薬の選び方を考えてみましょう。
ペニシリンG
ペニシリンGだけでは、モラクセラカタラリスやインフルエンザ桿菌を治療することはできません。
ペニシリンGのスペクトラムではモラクセラやインフルエンザ桿菌をカバーしていないからです。
ですので、肺炎で菌が分かっていない状態では、ペニシリンGでは肺炎の治療ができません
(グラム染色をして、肺炎球菌性肺炎とわかっていればペニシリンGでも肺炎治療はできます)
Cefotiam(セフォチアム)
Cefotiamというセフェム系の抗菌薬があります。
この抗菌薬のスペクトラムは、肺炎球菌もモラクセラカタラリスもカバーします。
インフルエンザ桿菌もカバーするのですが、BLNARと呼ばれる耐性のインフルエンザ桿菌には効きません。
Ceftriaxon(セフトリアキソン)
Ceftriaxonという第三世代のセフェム系の抗菌剤なら、肺炎球菌もインフルエンザ桿菌もモラクセラカタラリスも治療することができます。そのため、ガイドラインなどでは市中肺炎の初期治療としてCeftriaxonが推奨されています。
このように、どの菌に対して治療できるかということを知っておくことで、患者さんを治すことができる抗菌薬の選択ができるようになります。
貴重な抗菌薬の耐性菌が出現するのを防げる
では、すべての菌をやっつけられるような抗菌薬はどうでしょうか。
一見、すべてやっつけられるなら、効かない心配なく治療できそうに思えます。
しかしこれをしてしまうと、耐性菌が出てきてしまいます。
たとえば、レボフロキサシン(LVFX)という抗菌薬があります。
商品名では、クラビットRと呼ばれる薬です。
経口の抗菌薬で、肺炎球菌もインフルエンザ桿菌もモラクセラカタラリスにも効きます。
スペクトラムとしては肺炎に対し十分に治療できる広さがあります。
しかしこの抗菌薬は、できる限り温存しなくてはいけません。
というのも、この抗菌薬は緑膿菌にも効果を示します。
そのため使用を続けていると、緑膿菌感染の時に使用できなくなってしまう(耐性化してしまっている)というリスクがあります。
そのため、たくさんの菌をやっつけられる抗菌薬がすぐれているわけではありません。
まとめ
スペクトラムとは、「この抗菌薬はどんな菌に効く抗菌薬なのか」、という意味を持っています
使用する抗菌薬がどの菌をカバーするのか、(=どの菌に対してスペクトラムを持つのか)
ということを知ることは、
・推定される菌をやっつけるための抗菌薬が選べる
・貴重な抗菌薬の耐性菌が出現するのを防げる
上で、非常に重要です。