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研修医の勉強方法や使える医学知識の習得

SBARによる報告 電話で医師に相談・報告するのが億劫な人へ

 

SBARという連絡方法を知っていますか?

 

SBARとは

S:Situation「状況」
B:Background「背景」
A:Assessment「評価」
R:Recommendation「提案」

 

この4つを使い、電話連絡するとお互いにストレスがヘリ、良い情報伝達ができます。

 

SBARがどのようなものなのか、どのように使うのかを解説します。

 

 

SBARの前の前提条件

SBARを学ぶ前に、そもそもの前提として、研修医の方や医学生の方、またコメディカルの方に知っておいていただければと思いますが、誤解を恐れずに言うのなら、多くの医者は電話を受けることが嫌いです。『電話だと感じが悪い』、『電話をかけるのが怖い、億劫だ』という方、いませんでしょうか?

 

もちろん感じの良い人も多く、きっと全ての人が電話を嫌いな訳ではありませんし、私もできるだけ感じよくしたいなとは思っているのですが、上記のように感じている人が少なくないのは残念ながら事実です。

 

なぜ電話が嫌いなのかイメージ付きますか?

 

 

答えは、『電話が来る=予定外の仕事が来る』とほぼ同義だからです。

 

救急外来の研修医から電話が掛かってきたら、それは予定外の患者の診察、処置の確率が高い電話になります。
病棟から電話がかかってきたら、オーダーや処置の出し直しや、今居る場から離れて診察、治療をする必要がある確率が高い電話になります。

 

どちらも、『今していること』を中断し、『本来なかった仕事』が増え、『その後の自分の時間』が減ることを意味します。

 

 

なので、まず感情がマイナスに向きやすいのです。

 

 

その時のその人の頭の中で考えることは

  • 緊急性があるのか(すぐ行かないとヤバい用件なのか)
  • どれくらいの時間を要するのか(電話で片付くのか)
  • 自分が自信を持って対処できる用件なのか
  • 自分に連絡するべき電話なのか
  • 早く切りたい、この電話がなかったら良いのに・・

 

という感じです。(繰り返しになりますが、電話で不機嫌になるタイプの人の場合です。)上記のことを、1秒でも早く知りたいですしそれに役立つ情報以外は一切聞きたくないので、時間経過とともにドンドンイライラしていきます。

 

ちなみに、非常に良い人でも疲れと寝不足がひどくなってくると、上記思考が残念ながら出やすくなってしまいます。いい人、優しい人はなりにくく、その思考で苦労している研修医やスタッフの方を考え、なるべく感じよい返事をしようとしてくれます。我々もそんな人になりましょう。電話したくてしてるわけではなく、必要だからしてくれていて、それが患者さんにとって良いことになる確率が非常に高いのが電話連絡なのですから。

 

 

全員が感じ良いわけではないですし、どちらにせよ効果的に伝えた方が情報伝達も正確で安全で、お互い気持ちよく仕事ができますので、電話する側も技術を身につけましょう。

 

そして、電話をする時点で、「相手にどのように動いて欲しいのか」を先に目標設定します。

 

今すぐ来て欲しいのか(超緊急)
少し後でもいいから、きちんと診察に来て欲しいのか
電話連絡でそのままでよいのか確認をしたいのか(保証がほしい)
診断が困っているので、教えて欲しいのか
入院適応なので、入院の方向でお願いしたいのか
心配なので、一緒に診察してほしいのか

 

そのゴールを決め、そこから逆算して電話します。

 

 

なので、超緊急で今すぐ来て欲しいなら、最適解は情報収集ではなく
「○○先生、3階病棟で急変患者です。血圧低下で意識がない方で、ショック状態です、今発見したところで情報は足りませんが至急来ていただけませんでしょうか」
「コードブルーです 玄関前」
です。それで必ずその人は来ます。

 

 

では、電話連絡をする場合に役立つSBARは、コードブルーのような超緊急時以外の緊急では非常に役立ちます。

 

最後にその前に、自分の名前と相手の先生に今電話して良いのかと、電話対象として正しいか(循環器科の待機で間違えないでしょうか?などを確認します) 

 

 

S:Situation「状況」

患者さんに何が起こっているのか、簡潔に伝えます。
ただし、「〇〇さんが、発熱しています」というだけでは駄目です。

 

患者さんの名前で全ての状況を把握できない人も多いですし、受け持ち患者でない人の場合はなおさらです。

 

一部患者さん背景(Background)に重なってしまう部分はあるのですが、それでも最初の一言目は、『電話する相手との関係性+状態』を伝えましょう。

 

『○○先生主治医の××さん、50歳女性の方が』と付けるだけでも、自分との関係性と責任の度合いを測ることができるので、役に立ちます。その上で、Situation呼吸苦を訴えていますと伝える

 

『当院初診の60歳女性』がとつければ、知らない人だから今からその患者さんの状態を聞こう、となります。

 

 

『主治医じゃない患者さんの名前+症状』だけを言われると、全く想像がつかないことが想像いただけますでしょうか?

 

 

主治医の知り合い患者さんでなければ、名前には何の情報もありません。その場合には無駄な一言です。
はじめの一言は、その電話相手との電話中の関係性を作るとても大事な一言です。しっかり考えましょう。
その上で、電話の相談の症状をお話します。

 

 

※研修医から待機医や上級医に電話する時点で、確定診断がもうついているなら、Situationのはじめの一言にその病名を付けてもOKです。
例えば、「STが明らかに上がっている心筋梗塞だと、「初診の60歳女性で、心筋梗塞の方を相談させていただきたく電話しました」と伝えれば、電話相手の初動は確定するからです。

 

逆に、診断があやしくその医師に相談したい、という場合には、根拠もないのに言うな、と機嫌を損ねてしまう場合もありますので注意です。(例えばルンバ-ルしてないのに、その依頼をしたくて電話する冒頭に、「髄膜炎の人がいるのでルンバ-ルお願いしたいのですが」といった時の違和感を想像してください、その際には「発熱意識障害のある60歳女性の相談を」と言えば、ふむふむルンバ-ルしないとな、と電話先の相手は考え始めます。)。

 

 

 

 

B:Background「背景」

つぎに、その背景情報を伝えます。

 

具体的には、相手にしてほしいことに繋がるように作っていきます。

 

発熱の人を診察してほしいなら、どのような熱でなぜ見て欲しいのか、背景情報を伝えます。そのためには超緊急性がなければきちんと情報を集めておく必要があります。電話では、一言一言には全て意味がある必要があり、必要ないことは言いません。聞かれたら答えられるように準備します。

 

夜間から発熱があり、それだけでなくシバリングが見られます(心の中では敗血症だと思っていることを伝える)
化学療法で免疫抑制状態の方が、夜間から発熱しています(感染時の悪化のリスクが高い人です)
インフルエンザ陽性の方の同室の患者さんが、熱を出しています(感染が院内に広がるリスクがあると考えている)

 

なるべく簡潔に。

 

熱以外のバイタルは乱れていません。など。

 

ここまでで、だいぶ変わります。

 

例えば、
知らない患者さんの名前+年齢もわからず、熱だけ言われ、その後、正常なバイタルだけを言われ、熱源やリスクファクターに関する情報も分からない説明が延々と続く・・・・
こちらが、「わかりました、主治医が別の先生かと思うのですが、この方はもともと何で入院していた方で何歳くらいでしょうか?」
と質問すると
「あ、ちょっと調べます・・今は食事もとれてきているみたいだったのですが・・」
と帰ってくる

 

上記の心理状態を踏まえた上で、この状態でイライラしないと思いますでしょうか?

 

一刻も早く、患者さんが安全なのかどうか知りたくないですか?

 

 

で、このバックグラウンドでは、何が大事で、なぜ心配なのかのアセスメントが情報を決めるので、修行をしましょう。ただ、考えられる範囲で考えてしゃべると、どんどん精度があがっていきますのでそういう意識付けが大事だと思ってください。

 

 

 

A:Assessment「評価」

ここで、自分がどう思っていて、どう電話を受けた側にお願いしたいか伝えます。

 

合っているかの問題ではなく、自分なりにどう考えていて、どうして欲しいのか考え、伝えます。

 

さっきの例だと
知らない患者さんの名前+年齢もわからず、熱だけ言われ、その後、正常なバイタルだけを言われ、熱源やリスクファクターに関する情報も分からない説明が延々と続く・・・・
こちらが、「わかりました、主治医が別の先生かと思うのですが、この方はもともと何で入院していた方で何歳くらいでしょうか?」
と質問すると
「あ、ちょっと調べます・・今は食事もとれてきているみたいだったのですが・・」
「38度でたのは久しぶりなんです」

 

ではなく、
「○×先生、◎病棟の☆☆です、本日内科の当直医で間違いなかったでしょうか?今お電話大丈夫でしょうか?」
「血液内科入院中の50歳女性が、38.5度の発熱があります」
「この方は多発性骨髄腫で現在化学療法のため入院しています」
「発熱以外のバイタルや全身状態は悪くなく、SIRSの兆候は現在みられません」
「ですが、化学両方中の発熱であり、リスクが高いと考えています」

 

 

 

R:Recommendation「提案」

そして、はじめに考えていた、してほしいことの提案をします。

 

「○×先生、◎病棟の☆☆です、本日内科の当直医で間違いなかったでしょうか?今お電話大丈夫でしょうか?」
「血液内科入院中の50歳女性が、38.5度の発熱があります」
「この方は多発性骨髄腫で現在化学療法のため入院しています」
「発熱以外のバイタルや全身状態は悪くなく、SIRSの兆候は現在みられません」
「ですが、化学両方中の発熱であり、リスクが高いと考えています」
「診察をお願いできますか?」

 

きちんと伝えましょう。

 

 

上記の流れがきれいにいけば、電話相手が好意的に助けてくれる確率があがります。少しSBARの観点だけの話ではないところもあったかもしれませんが、これを頭に入れつつ、少しでも何かの役に立てば幸いです。

 

 

私は研修医の頃に上級医に電話するのは怖かったですし、各科の待機医に電話するのも怖かったですし、今でも他科の先生に相談するときにはプレッシャーを感じ、(少なくとも現時点の自分にとって)最適な電話になるよう意識して電話しています。そして、患者さんのアウトカムはそれにより改善すると考えています。

 

 

最後に。
言うまでもなく、電話されて怒る方が悪いです。電話するのが怖いと思われる人には問題があります。そういう方は、必要な連絡が必要なタイミングで来ないことで激高するタイプですが、自分の態度がその自体を招いたことに気づけない人です。それによって患者さんのアウトカムが悪くなってしまうことは絶対に避けなければいけません。患者さんのためにしていることがいつも正義なので、それだけは誤解せずどんどん電話しましょう!

SBAR 電話で医師に相談・報告するときに